記憶の糸(1)

 「アルカディアス」

 アルカディアスは名前を呼ばれた。
 呼ばれた相手に敬意を表し、その場に膝をつき深く頭をたれる。

 「よい。面(おもて)を上げよ」
 「はい」
 その言葉にアルカディアスがおずおずと顔を上げると、声の主は微笑み、そして急に真面目な顔になって言った。

 「この間の話・・・・・・考えてもらえたかな?」
 『やはり、そのお話のこと・・・・・・』
 その内容にアルカディアスは自ずと体が強張るのを感じる。


 「"彼"は危険人物だ。彼の力を奪い取らなければ世界の・・・・・・、否、宇宙(コスモ)全体の脅威となる・・・・・・」
 「ええ・・・・・・知っています・・・・・・」


 「この前も言ったが、もう一度私からお前に頼むよ。アルカディアス・・・・・・お願いだ。どうか------、お前の封印の力で、やつの力を奪い取って欲しいのだ------。承知して------もらえないだろうか?」
 相手の真剣な様子に、アルカディアスは胸をきゅうとつかまれるような苦しさに、眉をしかめた。


 早く------答えを------言わなければ。
 アルカディアスは口を開いた。


 先日、真とひともんちゃくあってからというもの、由愛はここ数日家から出なかった。年も暮れだし外は寒いし出なくてもいいやと思う反面、せっかくの休みなのに自宅ばかりでは気がめいってしまう。さすがに飽き飽きして寝るかゲームをやるかテレビを見るかぐらいしかなくなる。

 そんな時。
 由愛は転寝(うたたね)のまどろみの中で新たに前世の夢を見た・・・・・・


 ------ 記憶の糸がほんの少しつず解(ほど)かれる・・・・・・


     *****   *****


 「きゃぁぁ!」
 叫び声をあげてアルカディアスは寝台の上に飛び起きた。
 夢の内容は全く覚えていなかった。
 なのにものすごく恐ろしい夢であった事だけは事実だった。その証拠に心臓は早鐘を打っているし、体全体に嫌な汗をかいている。

 「何なの・・・・・・一体・・・・・・」
 いつも見る夢。そうと分かるのにそれがどんな夢だったのかは一度起きると思い出すことが出来ない。
 飛び起きたために乱れた長い髪を手で整えながらつぶやく。
 汗で衣服がびしょびしょになり、少しだけ身震いする。このままでは風邪をひいてしまう、と寝台から降りて白く長い衣服の裾を床に引きずりながら着替えに向かう。

 木製のものがほとんどを占める質素な部屋。
 年頃の娘らしい調度品などひとつもない。あるのは古ぼけた鏡台と衣服の収納かご、そして数個の木製の小物入れだけだ。
数年前まではこの村の長の下の娘が使っていた部屋らしく、その頃はそれなりに娘らしい物も置いてあったというが、その娘が隣村に嫁に行く際に部屋の中の物はほとんど運び出されて今はない。その娘も今ではめったに帰っては来ないという。
 何もない部屋だがアルカディアスは結構ここが気に入っていた。
この何もないところが、自分にはふさわしいとも思う。


 ------そう。
 名前以外、数ヶ月前までのことを何も覚えていないからっぽの自分。
 何もないこの部屋はまるで自分のようだとアルカディアスは自嘲気味に思っていた。

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